大判例

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東京高等裁判所 昭和47年(ネ)1571号 判決

右事実によって考えれば、控訴人は本件根抵当権設定契約を締結するに当って[土谷]ないし啓志が無権限であることについては知らなかったものといいうるけれども、そのさい物件所有者である被控訴人の息子と[土谷]とが知合であると聞いたのみで、それ以上にどのような事情で被控訴人が他人のためもっぱら自己に一方的に不利益を負う物上保証人となるかについてたしかめることをせず、物件所在地にのぞみながらそれに居住する本人についてひとこと照会することすらせずして一挙手一投足の労を惜しみ、さらに自己に利益を受けるべき立場にある[土谷]から必要書類を本人の許に直接送らないよういわれているのであるから、はじめから当然その不自然さに気付くべきであったのにそのことについて何の注意も払わず、あえて[土谷]との従前の取引に馴れ漫然書類の表面上の形式に安住して、正規の手続以前にいち早くつなぎ融資六〇〇万円を出金した後、本件根抵当権設定契約及びその登記をしたものであって、その間金融機関として尽すべき注意を尽したものとはとうていいいえないところである。当時もし控訴人がこれら確認の手続の一つでもとっていたならば啓志ないし[土谷]の無権限は容易に知りうべかりしものというべきことは明らかである。なるほど本件土地建物については登記薄上昭和信用金庫のための根抵当権設定登記及び同抹消登記、これに引続いて同栄信用金庫のための債権額金一、〇〇〇万円の抵当権設定登記が経由されていたことは明らかであるが、正当に昭和信用金庫関係の事務が処理されたのは二年以上も前のことであり、同栄信用金庫関係はもともと無権限になされたものであること前記のとおりであり、しかもこれらの関係について控訴人がその間の説明をきいたなんらの形跡すらない本件においては、これらの事情は控訴人の認識に何ほどの影響を及ぼしたものともいうことをえず、もとよりこれをもって控訴人に過失なしとする事由とするに足りないことは明らかである。しからば控訴人は啓志ないし[土谷]らの無権限を知らなかったことについては過失あるものというべきであり、同人らに権限ありと信ずべき正当の理由があったものということはできない。従って右根抵当権設定契約は有効ということをえず、控訴人の抗弁は理由のないものとして排斥すべきである。

(浅沼 加藤 園部逸)

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